草木染めと合成染料(化学染料)
- モノつくりのこと
- 2015.8.9
今回は草木染めと化学染料染めについてお話したいと思います。
MAITOでは「草木染め(くさきぞめ)」で商品の色を染めています。
一般的にこの「草木染め」という方が伝わりやすいので私達はそう呼んでいますが、
「自然染め」「天然染め」「植物染め」などと呼んでいる方もいます。
実はこの「草木染」という言葉は近年に出来た言葉なのです。
名付けの親は山崎斌(やまざきあきら)さんという方で、
実際に昭和7年に商標登録された記録があります。
「草木染」をいう呼称は「草木染を愛する人に自由に使用してもらいたい」という思いから商標権を放棄されたと、ご子息の山崎青樹さんに伺いました。
私たちは山崎斌さんのご好意で「草木染」という呼称を使わせて頂いているわけです。
余談ですが、山崎青樹さんが発行された「草木染 染料植物図鑑」は昔よく読ませていただきました。
この「草木染」という呼称。正式な名称で呼ぶとすれば「天然染料染色法」でしょうか。
ちょっと長くて覚えにくそうですよね?
ですのでMAITOではご好意に甘えて「草木染め(草木染)」と呼ばせていただいています。
―――さて、ここからが本題。
「草木染め」という呼称自体が近年のもの、それはなぜか。
生地や糸を染めるのには自然界にある「天然染料」を使って染めるのが当たり前だったんです。
なので区別する必要がなかったんですね。
約160年前「合成染料(化学染料)」が世界ではじめて誕生します。
1856年にロンドンのウィリアム・パーキン博士がマラリアの解毒剤キニーネを合成しようとして
偶発的にできた人工染料が合成染料の始まりです。
1900年初頭までにイギリスやドイツで開発が進み実用化され、
「天然染料」にとってかわり、安価で手軽な「合成染料」は世界の染色技術の主流となりました。
日本では明治初頭から「合成染料(化学染料)」がすこしずつ輸入され、
「草木染め」はほとんど忘れ去られてしまいました。
現在も流通している商品の99.999%以上が「合成染料染め」になります。
「合成染料」が普及したのには理由があります。
1)安定している
染料自体の質が一定なので同じ色を染めるのに数値化が出来ます。
これによって毎回同じ色が染められるようになりました。
2)安価である
草木染めは植物を育て、収穫し、煮煎じるなど、とても手間がかかります。
収穫や栽培、人件費、光熱費もいれるとそのコストは合成染料の100倍以上になります。
3)長期保存ができる
合成染料にも保存期限が有りますが、たいていは2-3年程保存ができます。
草木染めの場合、鮮やかな色を染めようとすると採取してすぐに使わなければならないということもあります。
また、季節によって染められる色も限られてきます。
4)色が強い
色の強さを「堅牢度(せんしょくけんろうど)」で表します。
日光堅牢度、洗濯堅牢度、摩擦堅牢度が重要なのですが、
草木染めよりも手軽に堅牢度を高めることが出来ます。
こうして見ると良いことずくめですね。笑
でも実はこれ、色が強いということ以外は、製作者目線での良いことばかりなのに気づきます。
”安価に、同じ色をいつでも染められる”=”量産に向いている”ということなんですね。
それでは、「草木染め」の魅力はどこにあるのでしょうか?
1)安全性が高い
化学染料の中には危険なものも在ります。過去に使われていた化学染料で現在は使用を禁止されているものもたくさんあり、
最近では2015年4月にアゾ基を含む染料が発がん性物質を生成する可能性があるとして衣類などに使用禁止となりました。
代表的な染料では直接染料と言われる種類のもので、
現在も洋服や靴下、下着など、この染料を使っている製品が多くみられます。
注染手ぬぐいの工場さんも今までは直接染料を使っていたのですが、
安全とされている反応染料に切り替えてはじめているそうです。
実は規制と言うのは各国で異なります。
通常、海外で染められたものは輸入の段階で規制がかかるのですが、
日本では規制されている染料を使っていても気づかないで輸入されてしまうということもあります。
その点、草木染めは自然界の物を使って染めるため、安全性が高いと言えます。
(毒性のある植物や重金属の媒染剤を使うなど、「草木染めすべてが安全」といえるわけではないので注意。)
2)環境に優しい
草木染めは水をたくさん使うから環境に悪いとおっしゃる方にお会いしたことがあります。
確かに水は必要ですがそこまで大量には必要ありません。
合成染料染めも同様に水を使います。
染色後の排水が重要になります。
合成染料の染織排水は環境汚染の原因とされ、日本では浄水施設の設置が近年になって条例化されました。
草木染めは植物を煮煎じた物を使うので、熱湯のまま川に流すなどをしなければ環境を傷つけてしまうことはまずありません。
3)中間色や微妙なニュアンスの色の堅牢度が高い
幾重にも色を重ねたような微妙なニュアンスの色合いは、
合成染料で染めようとすると数種類の染料を調合することになります。
一般的には3種類以上の染料を混ぜると「染色堅牢度」が極端に低下してしまいます。
草木染めの場合、元々染料の中に様々な色素が混ざっているので、奥行きのある色合いに染色できます。
4)薬効がある
草木染めに使われる植物には薬効があると言われているものがあります。
有名なのは藍染めの抗菌、虫除け作用ですね。茜は滋養強壮や抗菌作用など、
栗染めは皮膚病に効くとされてきました。
実用的なところではこれくらいでしょうか。
歴史やストーリー、自然の命を頂くことの意味など感性や眼に見えない魅力もたくさんあります。
「草木染め」のもっと深いお話はまた今度に―――。
MAITO DESIGN WORKS
小室 真以人
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